奥村まことのブログ 吉村順三先生に学んで

 

ブログの最終回「私見 愛知芸大の建物の行方」を読んで      

2015年12月

私はまことさんがブログを書き始めたころ、当時在学していました。あれから5年ほど月日が経ってしまいました。私も卒業し愛知を離れてしまい、キャンパスの行方を追い続けることができず現在に至っていることをお許しください。まことさんのブログが最終回となることを聞きまして、今思うことをお伝えしたいと思いました。



振り返れば、キャンパスの建て替えマスタープランの模型が展示されているのを見て目を疑ったことが一番初めのアクションだったのだと覚えています。特に私は、大学は別の大学で建築を学んで、大学院で初めて県芸でお世話になることになったので、県芸キャンパスに対する視点としては、大学の時から何気なく在る親しみのある風景というよりは、目で捉えられない広大な空間の計画から手に触れることのできる細部の計画まで、恐縮するほど考えられた貴重な風景だと感じながらでしたので、突如現れたマスタープランの模型には驚きを隠せませんでした。

それからですが、どうにかこうにか流れを変えられないか、もう一度全体計画をしっかり詰めて欲しい、吉村建築の素晴らしさをどう継承していけばいいかなど、様々な想いがあふれ、学生生活後半はほとんど県芸キャンパスについて考えていたのを覚えています。



その中で、一つ大きなことを学びました。それは、卒業間近のことでしたが、女子寮が解体されるとのことで、女子寮の転用を主張してきた私たちですが、具体性が無いと話にならないと思い、女子寮の転用案を作成することにしました。そこで初めてですが、女子寮の手書きの設計図を見せてもらうことができたのです。その時に、建物全体の敷地図に細かくびっしりと何か文字が書かれていたのです。よく見ると、建物の廻りに計画している植栽の名前と高さと本数と位置が細かく明記されていました。今の建築の世界でも、当然あることなのだとは思いますが、恐らく吉村先生は自然形態を十分に理解し配置し、全体計画のコントロールもしていたのだろうと感じました。これは普通に建築を学ぶだけでは辿りつけない世界だと思います。吉村建築といえば建築の細部まで拘ったディティールが素晴らしいことで有名ですが、これには圧倒されました。最近ではこの建築の規模になると分業化や専門化が進んでいるので、ここまでの知識や思考が備わっている建築家の人はもういないのではと思ったりもしているわけです。と同時に、キャンパスや学生への愛情も感じました。そう思いませんでしょうか?必要な建物を必要な分だけ適切に配置すればキャンパスは成り立ちますよね。それ以上考える必要はありますか。キャンパスをつくるとは、建築家とは、ということを学んだような気がします。



それともう一つ、やはり皆さんがご指摘しているように「メンテナンス」についてです。これはもう急務だと思います。建築だけの問題ではありません。土木も含め、建造物・建築物のケアの重要性を社会全体で考えていかないといけない時代になっていると強く思います。といっても問題が大きすぎてどのようにしていくべきか方向性や結論が見えないまま、所有者の決断を待つしかない世の中になってしまっていると感じます。そのようになってしまっているのは、これらに関する基礎知識がある人の絶対的人数が少ないことが一つの原因かもしれません。それはとても残念なことだと感じます。最近では新国立競技場の話で、大規模修繕費が何十年後には建てた時と同じ金額が必要になり問題だというニュースが流れていましたが、それはこの件に限ったことではなく、どんな建物でもそのくらいのお金は必要ですし、当然維持管理の仕方によってはもっと必要になってくるかもしれないとうことをメディアも含め一般の方々が知らないという事実にはとても残念に感じています。

それではどうすればよいのかと、未熟者ながらやはり「教育」が大事なのではないかと考えています。例えば、小学校や中学校の時に数学や理科を教わるように「建物」や「街」そして「都市」の在り方や考え方そして関わり方そして共生の仕方が基礎知識としてあれば、もっと多くの人が自分のことのように考えて接し管理できる、また何か不具合があってから分かるということも少なくなる、そして、自分たちで具体性を持って未来を創造することもできるのではと考えます。

建築に携わる人は当然のことながら、そうでない使い手の皆さんの意識が変われば、もしかしたら、今の何でもありな日本の風景が、吉村建築のような、何か意思を持った気持ちのよい空間が広がる風景にどこかで変わるのではと淡い夢を描いています。すぐに何かが変わる世の中ではないですが、地道にこのようなことを考えながら、吉村先生の広く温かい視野を持って、社会全体の空間や環境に対する意識を少しずつ高めるようなことをしていけたらと考えています。



 最後になりますが、まことさん、優しいタッチの挿画と潔く鋭いお言葉をありがとうございました。まことさんがおっしゃるように、何においても、一人一人が考えて、可能な行動をしてくことが非常に大事だと思います。建築もそうですが、一人の建築家がデザインした建物であっても、それを実現するために何千、何万人という人が力を合わせて造ったものですから、そのことを忘れずに、より多くの人が「建築」に対してもっと意識を高めてもらえるよう努力していきたいと思います。また元気になりましたら、ブログを拝見したいと思います。どうぞよろしくお願いします。


12月23日 河野 恵