愛農学園農業高等学校 三重県伊賀市 1964年の建物を2010年に減築改修
愛農学園農業高等学校 三重県伊賀市 1964年の建物を2010年に減築改修
吉村順三先生、奥村昭雄先生の教え子にあたる野沢正光先生の減築による改修。
愛農学園農業高等学校は、日本でただひとつの私立の農業高校で、就農率45%、校内自給率70%などの取り組みでフードアクションニッポンアワード2011大賞を受賞しています。
学校を見学して、改修再生を成功させるためには、クライアント=利用者のビジョンが明確であることが大切だと強く感じました。農業を通じて命や自然について体で感じている学校だからこそ実現できた、持続可能な社会をめざす未来を予感させる環境です。
野沢正光建築工房のHPから図面や工事の様子がダウンロードできます
工事の様子や掲載記事の紹介 野沢正光とスタッフの出来事
愛農学園のブログ 本館再生工事の日誌
工事中の写真がたくさんあります。コメントもなかなか良いです。農業高校の校舎をつくろう
入り口の一カ所に、思い出のスチールサッシを残しています。ここは二重窓で 残りはペアガラスのアルミサッシ。
外断熱されているのがよくわかる外観になっています。
2012年3月、卒業式も終わり、減築再生から2年目にはいる校舎が新入生を待っています。
改修前の校舎は三階建 。写真は野沢正光建築工房HPより転載。3階部分をカットし、校舎を使いながら7ヶ月で完成した興味深い工事の詳細は野沢先生のHPでご覧下さい。多くの建築雑誌にも紹介されています。
増設された耐震壁は、学内で焼かれた杉板の仕上げ。
入り口の掲示板。野沢先生の紹介に「2008年みんなでさがした設計者」と書かれています。 学校と設計者との良い関係が感じられます。
校舎を案内してくださった愛農学園農業高等学校企画経営室長の品田茂さん、 地域研究の著書もある方です。お話を伺って、学校側が明確なビジョンで校舎再生に取り組んだことがこの計画の成功につながっていると感じました。
校舎再生の委員に女性を入れなければと、積極的に生徒の母親にも声をかけたそうです。その理由は、男性は上司など上の人の意見に同意する傾向がありはっきりものを言わないが女性は言いたい事を言うから。なるほど。。。
掲示板に貼り出されていた「これまでのあゆみ」を見ながら解説していただきました
2002:すべてのスタートは「いのちが第一」耐震診断の結果、震度5以上で危険の判定。早急な対策が必要。
2005-2007:募金活動、アンケート調査、学校づくりの理念の明確化について検討が重ねられ「質素であたたかみのある木造校舎」とする基本構想を決定。
2008:新校舎の設計者を公募。26件の応募から6名を書類で選び、ヒアリングで設計者のフィーリングをたしかめる。学校側は建築の専門家ではないので図面等のプロポーザルでは判断ができない。話を聞いて設計者の代表建築を関係者全員で視察。野沢正光建築工房を設計者に決定。
野沢正光建築工房から、環境への負荷を減らす為に減築で旧校舎を再生利用するプランが提案される。
2009:突然の補助金! 着工予定が早まる。
2010:3月から10月にかけて授業を続けながらの工事で完成。
2011:東日本大震災をうけて、予定していた図書館等の新築計画を「今、こんな事をやっている場合か」と延期することが話し合われる。学園は80名の被災者を受け入れる。
2012:生徒のために図書館は必要なので秋に新校舎着工を決定。2013年創立50周年記念に竣工予定。
東京オリンピックの年にできた校舎は建設業者にも耐震改修は無理だろうと言われた。学校関係者の議論の結果決められた基本構想「質素であたたかみのある木造校舎」に対して設計者からは既存の鉄筋コンクリート校舎の改修が提案された。これに対して基本構想どおり新しい木造校舎にしたい、と改修を反対する声はなかった。皆できれば壊さずに使い続けたいと思っていたので改修できるのならその方が良い、と思った。
品田茂さんのお話から学校の環境に対する意識の高さを感じました。
職員室 見学した時は外の気温も22度と快適でしたがふんわり気持ちのよい暖かさがありました。
写真からも木の香りが伝わる廊下。ここにはOMが入っていませんが入れれば良かったな、と話されていました。
階段の手すりは改修前のものを残したデザイン。
黒板の右にOMのダクトが通っています。
校舎がきれいになってから、学園祭の展示が垢抜けた、今までただ置いてあっただけだったのが椅子をこんなふうに並べて展示したりするようになった、と話してくださいました。
女子トイレの手洗。大きな鏡、姿見もあります。
男子トイレは普通の洗面器一つ。照明もスリッパも男子トイレと女子トイレは大きく差がついています。理由は男子はしっかり意見を言わなかったから。
生徒が切り出した間伐材を利用した机と椅子。パイブ製の一般的なものの3倍以上のコストがかかりますがそれ以上の効果が見られます。高さが替えられるタイプのものもあります。
家具について愛農学園のブログに詳細があります。>
みんなで考えた靴箱。長靴を使う場合が多いので、設計時に一番大きな生徒の長靴をもとにサイズを決めたそうです。
上履きは、米ヌカワックス仕上げの桧フローリングを傷つけ汚さない布ぞうり。講習会を開いて手作りできるようにしたそうです。
3階へあがる階段は屋根裏に続く階段になりました。
階段にはOMソーラーのしくみが解説されています。
手すり、階段がブツっと切れている。壁の色など改修前の校舎の雰囲気がわかります。
この建物が3階建だったことが伝わる、校舎の歴史。
OMハンドリングボックスが並んでいます。
昨年は、厳しい伊賀の冬、外気温マイナス5度で室温11度、今年は12度だそうです。
本館再生工事の資料、サンプルが保管されています。
ワイヤーソーのサンプルからアンケート回収箱まで整理して残されています。
見学を終えて校舎の向いの建物へ。ソーラーパネルで学校全体の10%の電気をまかなっているそうです。
ソーラーパネルが載った建物は、クラブ活動らしき部屋と食堂がありました。丁度お昼ご飯の時間。
お昼ご飯。学園で採れた食材でしょう、とてもおいしそうです。
春休み中ですが交代で生徒さんが学校にきています。
未来に希望がもてるような環境がここにありましたが入学を希望する生徒は少ないそうです。
愛農学園を見学して、いつまでも今までと同じ考え、行動では日本,地球は成り立っていかないと改めて感じました。