愛知県立芸術大学に生息するトンボと環境について
愛知県立芸術大学に生息するトンボと環境について
2011/09/07
愛知県立芸術大学に生息するトンボと環境について
トンボはそれぞれ種によって微妙に異なる好みの環境にすみ分けている。小川があり、森があり、湿地がある良好な環境が複雑に絡み合うほどに多様なトンボが生息していることになる。
東京近郊の都市では35種ほどのトンボが記録されていれば、良好な環境が残されたまちという評価となる。たとえば千葉県中央を流れる小櫃川(おびつがわ)は流路88キロの河川で、この流域の止水域まで含めたトンボ生息類は53種[2002~2004年調査 田中]であり、流域は3市にまたがっての結果である。
名古屋市水辺研究会編の冊子「未来に残そう、豊かな自然」のページをめくって驚くのはトンボの生息数61種という圧倒的な多さである。それが名古屋市周辺を含めたとしても驚きの生息数といえる。愛知県立芸術大学のある堀越川周辺に限ってさえ、45種は素晴らしく、千葉県人としては羨むべきトンボ種が多数含まれている。ヤンマを見ても池や川、特に流れの環境が多様な現況を推測でき、流水、湿地、池沼と森があるため、少し寒冷地種も含まれているのであろう。
愛知県では他の生息地があるのだろうか?ハネビロエゾトンボも大変な貴重種である。関東地方でハネビロエゾトンボがわずかにすむ場所では、他に数種が見られるにすぎず、愛知県立芸大の敷地内のトンボの環境は想像を越えて多種多様な良好な環境がある他に替え難い所だと見ることができる。
少し下流や香流川などで羽化したトンボの中でも、大学周辺の森で成熟を待って暮らす種も多いと思われ、環境を大きく変えれば一気に希少なトンボが失われる危険性が高いと危惧される。トンボは古代より日本人に愛されてきた昆虫である。水中のヤゴ期から羽化しトンボとなって短い生のある間に子孫を残しながら、どんな天変地異にも耐えて数億年、毎年生命を伝え続けてきた。こんな小さくけな気なトンボたちの環境を日本人はこれ以上減らしてはならないし、守っていく人間の知恵が求められているのではないか?
昨秋、名古屋市で開催された生物多様性締約国会議を踏まえ、環境に配慮し、生物多様性を守り、生きものと共生してこそ、世界に向けて愛知県立芸術大学はその存在意義を大々的にアピールを計れると期待できる。環境を壊してしまえば、元も子もない、PR効果はゼロどころかマイナスであることは明らかである。つまり、今回の新音楽学部棟の建設にあたり、「生物環境に配慮した」場合のみ、将来高い評価を得られるであろうし、それこそが大学にとっても、愛知県にとっても最大のメリットだと思う。熟考をお願いしたい。
自然通信社
江戸川の自然環境を考える会
田中 利勝
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