シンポジウム「愛知芸大キャンパスが持つもの」音楽学部校舎新築工事についてのまとめと要望書 

2011/06/20

関係各署宛


シンポジウム「愛知芸大キャンパスが持つもの」実行委員会代表

愛知県立芸術大学大学院 美術研究科油画・版画領域2年

佐野 聡


愛知県立芸術大学音楽学部校舎新築工事に対する要望書


去る平成23年6月12日、長久手町文化の家にて、愛知芸大キャンパス内の自然環境、近代建築史、長久手町の今と昔、愛知芸大で教鞭を取られていた方の、四人の先生方からお話いただくシンポジウム「愛知芸大キャンパスが持つもの」を開催いたしました。(概要については別紙に記載しております。)この度のシンポジウムは、愛知芸術大学施設整備計画の詳細を本学学生の多くが把握していないこと、大学からは今年の2月まで計画に関する説明が行なわれてこなかったこと、またその説明が不十分であると感じ、開催を決めた経緯があります。

そこで先生方よりお話いただいた内容、講演終了後に設けましたフリーディスカッションにて交わされました議論により、現在の音楽学部校舎新築工事の内容と経緯には様々な解決すべき課題があることが分かりましたので、以下その内容をまとめると同時に解決を求め、要望書として提出いたします。

今回のシンポジウムでの発言は公式なものであることを、パネラーでお招きした各先生方に了解いただいております。


シンポジウム「愛知芸大キャンパスが持つもの」

音楽学部校舎新築工事についてのまとめ


ビジョン検討部会での部会長の発言

現在の愛知県立芸術大学音楽学部校舎新築工事(以下本工事)の建設計画が、事前の確かな自然調査・水辺生態系調査・水質調査に基づいていないことが、今年の3月をもって終了した「愛知県立芸術大学施設整備ビジョン検討会」の議論の中で判明したと、この度パネラーとしてお招きしたDOCOMOMOの松隈洋先生よりお話いただきました。平成22年10月1日の第1回ビジョン検討部会で、DOCOMOMOの西澤委員の代理で出席されていた松隈先生から、長谷部会長に「本工事において、いわゆる環境アセスメントのような環境調査、自然調査といったものは行なったのか?」と質問したところ、「そういった調査は行なっていない。」との返答があったそうです。(本工事の実施設計費が承認されたのが平成22年3月です。)

その後公開された議事録には、ビジョン検討部会の議事録はなく、その後も公開はされていません。


本工事予定区域内、及びその近隣に生息する希少な生物とそれらを育む清流の存在

この度のシンポジウムにお招きした名古屋市水辺研究会代表の國村恵子先生からは、長年にわたる研究調査から、次のようなご報告がありました。

本工事予定区域内を流れる一の池からの湧水と集水域全体の伏流水である清流には、絶滅危惧種のハネビロエゾトンボや稀産種のミルンヤンマの幼生が生息しています。堀越川流域には、東海丘陵要素の動植物が生息・生育する湿地が分布し、流水中にはカワムツA型、カワニナ、などの多様な水生生物が生息し、全国各地の湧水清流自生地で絶滅危惧種として保護保全の対象種となっているカワモズクが、広範囲にわたり生育しています。また、区域内には希少種のスズカカンアオイの群生も確認されております。

現在の工事計画では、施工により排出される濁水は区域内の清流と堀越川に流れ込むため、ハネビロエゾトンボやカワモズクをはじめとする流水中の水生生物には甚大な被害が出ると考えられます。群生するスズカカンアオイも工事により全滅すると考えられます。


建設内容と本工事予定区域の地形による湿気への懸念

現在計画されている新しい音楽学部校舎には、2箇所のコンクリートダム形式の雨水調整池を設けることになっており、その上部空間を利用した野外ステージに谷地形を使ったすり鉢状の客席も計画されています。しかし雨水調整池上部という立地は、現地の谷地形と初期雨水の濁水による底泥により、湿気や悪臭という環境下に置かれ、また校舎の中央下部に位置するため、風の通りも悪くなり、本来、野外ステージや客席などを設けるには不適合とのことです。これまで清流にいた昆虫はいなくなり、代わりに濁水に生息する昆虫が増えると考えられる。

現在の音楽学部校舎であっても湿気で楽器が壊れるという話がありましたが、新しい校舎では立地上、さらに湿気が問題になるのが予想されます。


④ 新校舎の立地について

また、建設予定地を含む芸大敷地は県砂防指定地です。建設による周辺への環境負荷も建設費用も高い急傾斜地に建てるのではなく、他の候補地の選択肢は皆無だったのでしょうか。


本工事予定区域外への影響

そして、今回の建設工事計画が、周辺へも影響を及ぼすおそれがあるとして、次のようにご指摘されました。工事の際に排出される濁水、建物ができた後雨水調整池より排出されるファーストフラッシュを含む濁水は、現在本工事予定区域内を流れる清流に排出される計画となっています。堀越川源流域から湧出する清水は、香流川に合流し、矢田川、庄内川、伊勢湾へ至ります。國村先生の講演では、流域の小学校の総合学習で、多くの児童が川に入り、有意義な環境学習を実践しているとのことです。


物事にこめられた先人の意思を受け取り、どう活かしていくのか

長久手町議会議員である浅井達夫先生は、長久手町の開発の歴史、文化に詳しく、「子守石」や長久手の町並み、石仏を通して、物にこめられた想い、願い、信仰心、次の世代を思ってここに作られたということを、どう受け取り、どう次に世代に伝えるか、その大切さと共に、効率の良いもの、利便性との引き換えに、そういった想いがこめられた物を価値が無いと判断する危うさをお話いただきました。

そういった面から見たとき、今回の愛知芸大の施設整備のケースは非常に象徴的であり、今あるものをどういう意思を持って次の世代に受け継いでいくのか真剣に考えないと、自分たち自身が次の世代には忘れられてしまうと危惧されていました。


改修による音楽学部棟の設備改善

施設整備ビジョン検討会の第3、4、5回に奥村委員の代理として参加された愛知芸大名誉教授の大谷茂暢先生にお話していただいた内容によると、今の音楽学部棟のレッスン室については、広さは東京芸大と同じで、1人で練習する分には決して狭くはなくはないということを奥村設計所は言っており、東京芸大のほうは改修による設備の改善を行ない、上手な建物の再利用を実現したと仰っていました。

先生が教員をされていた時代も、毎年予算が削減され、メンテナンスに対する予算が十分でなかったとのことですが、今は法人化に伴いかつてできなかったことができるのは確かなので、芸術的な価値に配慮し考えていくことに期待するとした考えを示されました



以上のまとめより、現在の音楽学部校舎新築工事について、以下の7点を要望いたします。


建設予定区域での自然調査・水辺生態系調査・水質調査の不備を、シンポジウムのまとめより指摘いたします。現在の工事予定区域に建てるのであれば、確実に自然調査・水辺生態系調査・水質調査を行ない、これらの課題を解決するための現在の計画の抜本的な見直しを要望します。


自然調査・水辺生態系調査・水質調査の結果、現在の場所に建設が不可能であれば、再度これらの調査を行ない新たな建設区域の検討を要望します。


まとめ④「新校舎の立地について」より、既に取り壊された旧女子寮跡地及び将来種地にとされる平坦な場所に建設を要望します。


健全な水循環と水環境の改善を図る上でも、堀越川源流域の水辺生態系を保全してください。


現在の計画では、工事により排出される濁水、校舎ができた後排出される濁水は、本工事区域外にも影響を及ぼすことが予想されること、この度のシンポジウムにおいて、長久手町の方が施設整備の現状を知り、関心を示されていることより、長久手町民の方に無関係ではないと考えられます。現在の予定区域に建設するのであれば、町民の方にも広く知らせ、理解を求めるようお願いいたします。


シンポジウムのまとめ①ビジョン検討部会での部会長の発言より、施設整備ビジョン検討部会の正確な議事録の公開を要望します。


東京芸大での音楽学部校舎の改修を参考に、モダニズム建築として、周囲自然と調和した今の愛知芸大のキャンパスの姿を損なわない上、厳しい財政状況の中で整備にかける経費を安価に抑えることができると考えられる、現在の音楽学部棟の改修による整備の検討を要望します。




本要望書に対する回答を、6月22日までに頂きたく、お願い申し上げます。

 

注目!