愛知県立芸術大学の在学生の皆さんへ
愛知県立芸術大学の在学生の皆さんへ
2010/12/27
愛知県立芸術大学の在学生の皆さんへ
2010年12月27日 近藤 高史
私は、県の要請によって大学法人が設置した公的機関である「愛知県公立大学
法人愛知県立芸術大学施設整備ビジョン検討会」というものの委員に、2010年
7月より任命されておりました奥村昭雄の代理人として検討会に出席していた者
です。僕と奥村昭雄とは同意見です。第8回検討会(12月17日)において「検
討会から離れる」という宣言をしました。少し離れて距離をおいた場所から眺め
て考えたいと思ったからです。無責任であるという批判を受けました。しかし、
責任ある立場としていろいろ相談させて頂こうとしたのですが、取り上げていた
だけないとあっては、どうしたらいいのでしょうか。大変困っております。今す
ぐ直せるところを「直してみる」ということをやったらどうか、という具体的な
問題提起もしましたが、今の建物を急いで直すことには全然関心を示されません。
本日はみなさんに「直す」ということはどういうことか、という意見を聞いてい
ただきたいと思ってこれを書きました。読んでください。
メンテナンス(補修工事)とはなにか
われわれ設計者は、例えば住宅の設計をして、その家が出来上がり、建て主さ
んにお渡しするときに、いつもこう言います。「どうか手入れをし乍ら大切に住
んでください」、と。
目安として、建設に要した工事費の1割を10年間で貯金してください。建物に
は人間と同じように性質があって弱いところもあります。それを10年経って手当
てする。そうすると、そこから20年は大丈夫。もし、それをしないと全体がそこ
から10年で(はじめからで数えると20年)ダメになります。うまくいっていれば
手当て無しでも100年保っている建物もないことはありませんが、大抵は弱点が
あって10年目の点検は重要です、と。
実際、1年点検・2年点検・10年点検をする良心的な工務店はいくつもあります。
もう少し具体的に言うと、手当てをするべき場所は、主として「水周り」です。
建物、特に木造では、湿気と雨漏りと結露(冷たいところに空気が触れると空気
中の水蒸気が水に変わって露になること)によって腐蝕するのが寿命に一番関係
します。人間と同じ好みの湿度と温度によって、カビや白蟻も快適に生きていま
す。
コンクリートの場合には「クラック」が入ると鉄筋が錆びるというのが問題で
す。振動や収縮によってヒビが入ったら、その原因を探り、ヒビの手当てをする
べきです。雨漏りは、原因を発見するのがなかなか難しいことがありますが、必
ず原因はある、のです。
いづれも直すことは可能です。
次に問題となるのが「使い勝手」です。人数が増える。学科の内容が変わる。
絵の大きさが大きくなってきた。などによる使い勝手の変化には「増築」をしな
いといけない。逆に、この施設はいらなくなった、というときには「減築」も必
要となります。
つい最近、三重県のある学校が、全面建て替えをしないで、3階を2階に減築し、
外断熱を施したり便所を改造したりして生まれ変わったという例があります。費
用も少なくてすみ快適になりました。
始めの設計が不十分で、直さなければならない、というのも勿論あります。
音楽学部で問題になっている音のことが、それに該当します。練習室の窓はガ
ラスの厚みが5mmしかありません。本当は20mmにしたかったところですが、当初
はお金が足りなかったのです。だんだんに性能を上げてもらいたいと、設計者も
思っていましたが、ずっと「お金がなかった」のでしょうか。5mmを厚くしたり、
窓を二重にしたり、入り口のドアも木造であるのを金属にしたりする余裕が45年
間、なかったのでしょうか。
今からでも十分直せます。試しに一部屋やってみたらどうですか、と検討会で
提案しましたが、ここはそういうことを話し合う場ではない、と言っておしまい
にされました。
逆に、天井高さの問題は大きく取り上げられて、音楽学部の練習室と女子寮が
「天井が低い」ということのために「使えない」と言われました。
しかし、東京芸大と殆ど変わらない天井高さなのです。ヴァイオリンやチェロ
の専門家に聞いても「天井がすこしくらい低いかどうかは、音楽教育には関係な
い」と言っています(言っている人がいます、というのが正確ですね)。
大体、吉村さんの設計は天井が低い、という人がいます。高いものも勿論ある
のですが、低いのが悪いと反省して高くした、というわけではないのです。
何故建て直さなければいけないのか。
何故、直したり増築したりしてはいけないのか。全く理解に苦しみます。県の
県民生活部学事振興課、というところでは、2005年と2006年の2年間に亘って、
「建て替えないで、直したり増築したりする案」を真剣に検討しています。ちゃ
んと検討しているのに、どうしてその考えをやめたか、不思議です。
外人公舎も女子寮も壊さないで手入れをしていろいろな使い方をしてほしい。
音楽学部も、相当に大変かもしれませんが「直したり、増築したり」して使え
るので考えてほしい、と設計者は思うのです。
使っている間に問題点がわかってきたのですから、次に進むための「直しの設
計」をやる時が来たと思っているのです。
本来、設計者というものは、もっと建物の一生に関わって意見を述べたり、相
談にのったりすべきです。しかし愛知芸大では、設計者は第1期では図面を書い
ただけで工事のチェックの仕事はさせていただけませんでした。(1985年~91年
の第2期の時は現場監理をさせていただけた)
今回のような改築案を大学側が作るときも全く意見を求められていません。
建築家の側にも反省すべき点があります。建築家自身が、「設計者は必ず現場
監理も行い、保守管理も行う」ということを公共建築について、提案するべきだ
と思います。
一番大切なのは「全体計画」です。
自然保護の立場をしっかりと踏まえた全体計画があって、そこから部分の建物
を考えるべきです。今回のように、「とにかく一つ新音楽学部棟を建てる」とい
うのは無謀なやり方です。どれだけ自然とキャンパス全体に影響や被害があるか、
を解決するためにも、先ず全体計画をよく考えてから、個々の建物を考えるべき
です。
それなのに検討会では、大学側も県も「マスタープラン=全体計画は、無い」
となんべんも言っています。
また、全体計画を考えるのと同時に、日々起っている問題点の改修を、すぐに
でもやるべきです。教員のみなさんと学生のみなさんが欲していることに敏感に
反応して、生きているキャンパスにして欲しいと思います。
県は愛知芸大の中に、日々の建築のメンテナンス工事を責任を持ってやってい
く施設課を早く作るべきです。
今日はこのへんでおしまいにします。