神田真秋 愛知県知事御許に
神田真秋 愛知県知事御許に
2010/12/03
神田真秋 愛知県知事御許に
突然お手紙を差し上げます。
愛知県立芸術大学の立て替え問題についてです。もう時間がありません。非常に危機感を覚えます。それは今年中に1つの方針が出される予定になっているとのことだからです。
12月1日の愛知県議会における知事の答弁を拝見しました。「ビジョンの内容をしっかりと受けとめ,県での検討も加え,魅力ある大学作りにつとめる。」と発言されました。
そこで、知事に是非お願いです。県での検討を加えるときに今あるキャンパスが建築の上で,自然環境の上で,世界的にかけがいのない価値を持っていると言う事をもう一度考えていただきたいのです。あとで禍根が残らないように。
全体計画が決まらないままに,現在検討されている新音楽学部棟を建設するのは、今のキャンパスのバランスを致命的に崩す事になります。多くの専門家の意見でもあります。非常に危険なステップを踏み出す事になります。
芸大が早急に新音楽学部棟を必要としている事は充分理解します。しかし、計画されているような規模のものが本当に必要でしょうか?(これから少子化の時代になります。)既存の音楽学部の校舎との位置関係はあれで良いのでしょうか?(将来大規模な改築がなされる事が前提なら理解出来ますが,同じ音楽学部なのにお互いに距離が離れ過ぎています。)
県の指導により「ビジョン検討会」が開かれる事になったのはとても良かったと思いますが,客観的に見ていると今問題になっている新校舎建設を推進する意見の大学側の人、それをサポートする同窓会代表がメンバーのほとんどを占める「検討会」では、本当の意味での公正な検討がなされているでしょうか?多数派による強引な進行のされ方がとても気になります。(議事録を読んで。)
大学側の方々の話の中に出てくるのはほとんど現在のキャンパスの欠点ばかりで,評価される所はほんの少し,40年以上培われてきた大学の施設,環境に対する愛情がちっとも感じられないのはひどく胸が痛むところです。(多くの卒業生は愛着を持っているのに。)
神田知事が夏前に大学を訪ねられた時には老朽化した所,不具合な所を主に視察なさったようですが,木々が育ち,珍しい植物があり,起伏に富んだ自然の中のキャンパスのあちこちで自分の好きな場所を見つけて楽しんでいる学生の姿を目にされませんでしたか?あのような環境に恵まれたキャンパスは日本において,いや世界の中でも屈指の美しいキャンパスの一つだと言えます。
エコと騒がれている今,「直して使う」という事は多くの人の共感を呼びます。建築家の知恵と,新しく開発された材料,技術を使えば今計画されている程に大きな新音楽学部棟を建てなくても大学の要求に充分適った(そして予算も少なくて済む)校舎を建てられ、施設を整備出来るはずです。多くの人がその様な意見を持っています。
知事,是非閣下が英断を下される事を期待します。世界の建築を愛する人々が今,この問題に注目しています。国境を越えて固唾を飲んでこの立て替え問題の行方を見守っている人が大勢います。近いうちにHarvard 大学の建築科の先生から手紙を受け取られると思います。
日本で,愛知県の知事がこのキャンパスの危機を救ったという事になったら,どれほど多くの人がその英断を称え、感謝される事でしょう。そして,日本の近代建築史の中でその功績は後世に語り継がれる事になります。日本の、世界のお手本になって下さい。
知事,愛知県立芸術大学の立て替え問題についてどうか、もう一度お考えください。お忙しくすべてが貴重なお時間でしょうが,もし可能ならひっそりと芸大のキャンパスを訪れ、二の池辺りで、静寂の中、地中から湧き出る水音に耳を傾けて下さい。自然からの大きな恵みが感じられ,素晴らしい力が与えられるのを感じ取れるはずです。そのような恵まれたキャンパスで芸術の勉強を続けられるように芸大の学生たちの事を考えてあげて下さい。
おわりに、残る大事な期間,知事が職責を最後まで健康に恵まれて全うされる事を心からお祈りしています。
2010年12月3日
吉村隆子