平成22年総務県民委員会 本文
平成22年総務県民委員会 本文
2010/03/17
(主な質疑)
《議案関係》
【桂 俊弘委員】
芸術大学音楽学部校舎の整備について聞く。
私は以前から芸術大学に通う学生たちから、非常に建物が古くなってきているので、ぜひ見に来てほしいとの声を聞いていた。
視察をした感想はあとで述べるとして、まず聞きたいことは、今から四十数年前、当時東京芸術大学の建築科の教授をしていた吉村順三先生に設計を依頼し、1966年、昭和41年4月1日、愛知県立芸術大学が開校したわけである。
以来、本年4月1日で44年経過をし、音楽学部校舎の整備に向けた取組が計画された。
そこで、芸術大学の建物に関して保存要望が出ているとの新聞報道を見たが、どのような団体から保存要望が出たのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
今年に入って2件の保存要望書などが県へ提出されている。一つめは、近代建築の保存を目的に活動している国際的な学術組織であるDOCOMOMO Japanという団体から「愛知県立芸術大学校舎・建物群の保存・活用に関する要望書」が出されている。もう1件は、現在の芸術大学の建物を設計された吉村順三氏の長女が代表を務める吉村順三記念ギャラリーが中心となって集めた「愛知県立芸術大学の増改築について」の署名・要望書である。
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【桂 俊弘委員】
2団体からということだが、要望の内容は、どのようなものだったのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
要望書を受け取った後、それぞれ時間をとって話を聞いたが、今回予算計上されている音楽学部校舎の整備そのものに対して直接異を唱えるものではなく、いずれも、現建物の保存活用に向けて再考してもらいたいという内容であった。
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【桂 俊弘委員】
県として、芸術大学の建物をどう評価しているのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
昨年度、大学の研究者や建築家の方々から、芸術大学の建物の客観的な評価や、今後整備を進めて行くうえでの留意点などの意見を聞いた。その中には、DOCOMOMO Japanの会員も含まれている。
有識者の意見の主なものは、建物配置やキャンパス景観に高い評価を与え、活用できるものについては残すべきとの意見が目立ち、特に評価した建物として、キャンパスの南北の骨格を成す講義棟、その左右に控える奏楽堂、アトリエ棟については、共通して非常にたたえられていたことが印象に残っている。
その反面、現状のメンテナンス不足及び建築後40年以上が経過し、機能劣化が非常に激しいという認識を持っており、課題解消に向けては、利用者の意向を尊重して対応する必要があるとして、必ずしもすべての建物を残すべきというかたくなな意見ではないとの印象を受けた。
今回、音楽学部校舎から整備に着手することとしたが、その際も、ここで得た意見やアドバイスが、施設選択や考慮すべき点などで非常に参考となったと感じている。
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【桂 俊弘委員】
建物自体は評価されているということだが、実際視察をしてみたところ、学生たちが言っていたとおり、全体の印象として、非常に天井が低くて、非常に圧迫感があることが印象に残った。バイオリンの練習中に弓が天井に当たることもあるようだ。
そして、音楽教室ではレッスンに最も大切と思われる防音機能が悪く、隣の部屋はおろか、2階上の練習室の音が入ってくる。床、天井、壁の設備が非常に悪く、練習室の出入口の戸が2枚になっていたが、板戸のため当然音は外に漏れる。
4階の個人練習室は暗く狭い廊下を挟んで全体で40室ぐらいある。全部見せてもらったが、4畳半ぐらいの広さで天井が低く、壁・内装もひどくて、非常に例えが悪いが、以前視察した網走の旧独房のように戸に小さな窓格子があって大変厳しい状況であると感じた。雨漏りをして天井にしみがある部屋もあり、窓はガラスサッシ1枚で、山に囲まれていて夏には虫が入ってくるようだが、昨年度やっと網戸を入れてもらったという状況であった。
それから、トイレがひどい状況で、早急に改善の必要があるとの印象であった。
そこで、県は芸術大学の施設の現状をどのように考えているのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
芸術大学の建物は、老朽化が著しく、教育・研究環境の向上や学生・教員の安全確保の面から、早急な対応が必要だと考えている。このため、大学側の強い要請を受け、県としては緊急度の高い施設から順次整備を図っていくこととした。
芸術大学の施設の評価が高いことは、保存団体からの要望書などにより、十分認識しているが、大学の使命には利用者である学生に良好な教育環境を提供するとともに、世界で通用し、世界と競うことができる「人づくり」がある。そのため、まずは、利用者の視点に軸足を置いて整備を進めていく必要があると考えている。
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【桂 俊弘委員】
保存団体が訴えているように、改修して使用するという手段はとれないのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
新しく建て替えるか、今ある建物を改修して使うかということに関しては、芸術大学は開学時とくらべて学生定員が約1.5倍に増加していることから、狭あい化の解消やバリアフリーへの対応などの機能改善を確実に行わねばならない課題がある。
また、改修による場合の問題点は、代替施設の確保が必要となるが、平たん部が少ないキャンパス内では仮設建物の建設適地が限られている。また、防音、音響、空調などの機能を、新しく建て直す場合と同様の水準に保つことができるかという課題もあり、今回の音楽学部校舎に関しては、改修という手段がとりがたい状況であった。
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【桂 俊弘委員】
それでは、保存活用の視点からは、どのような考えなのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
建物の評価にはそれ自体が持つ「もの」としての評価とともに、利用者の視点による「施設」としての評価があると考えている。
大学キャンパスはそれなりの品格や風格が必要で、機能一辺倒でよいわけではない。これまで使われてきた建物の歴史やそこで教え、学んだ方々の愛着をないがしろにするわけではないが、部分的な改修、修繕では限界にきており、根本的に手を入れざるを得ない時期にきていると考えている。
始めに残すことありきの考え方でなく、それぞれの施設についてその現状や文化的な評価、教育研究活動への影響や効果、時間や経費面でのコストなどを総合的に勘案して決定していく必要があると考えている。
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【桂 俊弘委員】
現場の声が大切であるが、芸術大学は、整備に関してどのような考えを持っているのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
芸術大学では、内部の組織として各学部・学科の代表者からなる施設整備委員会を設置し、施設整備全般に対しての大学全体の意見集約を図っている。
音楽学部校舎の基本設計の契約締結後は、県も受託業者と共にその会議に出席している。その中で概算工事費や延べ床面積などの基本条件や造成回避による環境負荷の低減、既存建物との景観調和などの制約をつけてはいるが、幅広に意見を聴取し、芸術大学の考えを十分反映させている。そうしたことから、県の整備計画が芸術大学の考え方に一致していると考えている。
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【桂 俊弘委員】
現場の意向を大切にしようとする県のねらいはどこにあるのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
県としては、利用者の意向を最大限取り入れて整備計画を進めていくことで、学生が新しい建物に対して愛着を持ち、大切にしようとする心が育まれていくのではないかと考えている。そのことが、日ごろのメンテナンスや心遣いにもつながり、結果的に施設が長持ちするのではないかと考えており、こうしたアプローチを大切にしていきたいと思っている。
整備主体は県であるが、芸術大学と調整をとりながら進めているので、学生及び教職員から出される要望に期待の大きさを肌で感じている。
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【桂 俊弘委員】
今回、音楽学部校舎実施設計費が予算計上されているが、どういった点に配慮して整備を進めていくのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
今回の音楽学部校舎の整備に当たっては、現場の意向も踏まえ、計画を進めている。まずは、現在の校舎とは別の場所に新たに建設する手法を選択したが、その際なるべく大規模な造成を回避する形で建設場所を選定したことに加え、既存施設との機能連携や景観調和が図られるよう建物の高さ、外観などにも十分留意した上で設計を進めている。
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【桂 俊弘委員】
具体的にはどういった内容なのか。
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【学事振興課主幹(公立大学法人・宗教法人)】
教育現場の特性は、学生の校舎間移動が頻繁に行われることである。したがって、新校舎を既存施設になるべく近接させる配置計画とした。さらに法人の立場に立って言えば、効率的な運営をしていかなければならないので、できる限り施設の統合・集約を図るため、現在の音楽学部のレッスン棟など4棟を1棟の建物に集約した。
他にも、環境負荷の増大や整備コストの増高も避けるために、大規模な造成工事や新たな工事用道路の開設を回避できるよう、限られた敷地条件の中で、建設場所や配置にも配慮した。
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【桂 俊弘委員】
音楽学部校舎以外の施設の整備計画については、どのように考えているのか。
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【県民生活部長】
私どもも十分承知しており、学生に対して良質な教育環境を保証することが非常に難しい状況に至っているので、早急な整備が必要と思っている。
今回の音楽学部校舎の実施設計については、芸術大学の強い要請を受けて、緊急度の高い音楽学部校舎から整備に着手した。
他の施設も、老朽化、狭あい化、機能低下が進んでいるので、やはり順次に整備を進めていく必要があると思っている。
現段階においては、今後の計画は未定ではあるが、それぞれの建物の持つ文化的な価値や景観などには十分意を払って、さらには今後整備するにあたっては、教育研究活動への影響、整備に要するコストなどを総合的に勘案して進めていかなければいけないと思っている。
当然ながら、構想にあたっては、大学関係者はもとより外部の意見も十分聞きながら、慎重に進めていきたい。
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【桂 俊弘委員】
本県の財政状況が極めて厳しいのは周知のとおりである。すぐに手をつけられない、なかなか困難だということも理解できるが、様々なところを見て美術学部を始めとする他の施設も老朽化が進んでいるのも事実である。今、話があったように、どこを残してどのような全体像にするのか、そうしたものを財政状況が好転したら一日も早く対応してもらうように要望しておく。