2月議会 富田昭雄議員質問
2月議会 富田昭雄議員質問
2010/03/10
2010.03.10 : 平成22年2月定例会(第8号) 本文
◯四十九番(富田昭雄君) 歳出第十一款教育費について、幾つかお尋ねいたします。
まず、第四項高等学校費第九項私立学校費に関連して、高校の授業料実質無償化についてお聞きしま
す。
高校の授業料実質無償化は、ことし四月から実施される予定であり、実施が目の前に迫っています。こ
れは国の政策として実施されるものでありますが、その恩恵は当然愛知県の高校生も受けることとな
り、生徒や保護者のことを考えれば、一刻も早く実施すべき事柄ですし、国においては、急ピッチで制
度の詳細設計を進めているものと思います。
愛知県においても、本年四月から実際に公立高校の授業料を無償化し、また、私立高校の生徒に対して
就学支援金を支給することが必要となります。このため、県としても、主体的、積極的に制度の具体化
を進めることが必要と考えますが、本県における現段階での取り組み状況について、まずはお聞きしま
す。
高校の授業実質無償化は、県立の高校はもちろんのこと、就学支援金が支給される私立の高校生も大き
な恩恵を受けるものであり、愛知県民である公立十三万人、私立六万人の高校生や、その保護者にとっ
ても大きな関心事であります。
四月から実施されるものであり、混乱なくスムーズに実施をしていくために、県としても現段階でわ
かっている制度の概要について、生徒や県民に積極的に広く周知していく必要があると考えますが、県
当局のお考えをお聞きします。
今回の高校の授業料実質無償化により、私立高校生に対しても、公立高校の授業料年額に相当する約十
二万円の就学支援金が支給されることになるだけではなく、さらに低所得世帯の生徒に対しては約十八
万から二十四万が支給されることになっており、私立高校生に対してより手厚く措置されることになっ
ています。
しかし、私立高校の平均授業料が愛知県では約三十八万円であることを考えれば、愛知県としても、私
立高校生に対する授業料軽減補助事業をこれに上乗せして実施することが必要です。
これまで全国の各都道府県が私立高校向けの授業料軽減補助事業として約二百九十億を実施してきたと
聞いていますが、新制度の導入により、各都道府県の支援のかなりの部分について、国の就学支援金で
対応することができるようになります。
愛知県においても、私立高校生のさらなる負担軽減を図るため、これまで実施してきた私学に対する授
業料軽減補助事業の財源を活用し、上乗せして支援を行うべきと考えますが、お考えをお伺いします。
従来、愛知県が実施してきた授業料軽減制度を就学支援金制度導入後も今まで以上に上乗せ措置をする
場合、新しい就学支援金制度で投入される四十六億円が活用できるわけです。
十億円を拡充する計画のようですが、中身を分析してみますと、甲I甲IIと乙I乙IIと四層に授業料軽減
制度がありますが、そのうち、乙I乙IIが最もボリュームのある層で、その層だけで全体の四四%ありま
す。この乙I乙IIの層の公立高校との格差が以前の制度と比べると差が広がっているということです。低
所得者層に手厚いのはいいのですが、このボリュームのある乙I乙IIの層に上乗せ額が少なく、この層が
公立と私立の取り合いになり、公立高校へ流れるようなことがあれば、私学は募集困難になってしまい
ます。
この乙I乙IIと公立高校の差が広がったことについて、どのようにとらえているのか、お考えをお聞きし
ます。
また、問題を是正するためにさらなる上乗せをするお考えはないか、お考えをお伺いします。
それでは、授業料についてもう一点お聞きします。
授業料の滞納を理由に卒業式に出席ができない生徒や卒業ができない生徒がいると新聞報道にありまし
た。実際のところはどうなのでしょうか。もし本当にあったとしたら、本人にとってはとても悲しいこ
とであり、まさにいじめであります。
また、学校教育法の施行規則では、卒業証書を授与しなければならないと定めており、法律違反に当た
るのではないかとの見方もあります。
授業料滞納は保護者の問題であり、子供たちの問題ではありません。卒業式に出席させないのは子供の
人権問題でもあります。
昨年は、愛知県の県立四校で授業料滞納を理由に卒業式の日に卒業証書を渡していない事例があったよ
うであります。結果的には、三月末日までに全員渡したということでありますが、ことしは大丈夫で
しょうか。
私学においては、ことしも授業料の滞納を理由に卒業式に出席させないとか、卒業させないといった事
例があると聞いておりますが、どのような実態なのでしょうか。
ある高校では、単位も取得し、進学する大学も決まっている女子生徒が授業料の滞納を理由に卒業式に
出席できず、自宅待機になった事例があると聞いています。この場合、生活福祉資金貸付制度を活用
し、具体的な入金日まで決まっていたにもかかわらず、卒業式までに入金がないため、内規に従って卒
業を保留したとされています。友達と一緒に卒業式に出たかったのでしょう。大変に悲しいことです。
そこでお聞きします。
このような事例が愛知県下でどれぐらいあるのでしょうか、具体的な状況をお示しください。
また、生活福祉資金貸付制度など、救う手だては幾つかあります。特にことしは、国においては、政府
が生活給付金貸付制度の条件を緩和するなど、緊急的な措置もしております。学校関係者にも当然周知
徹底されているとは思いますが、学校関係者が生徒や保護者にこのような制度を紹介し、実際に卒業で
きた事例もあわせてお示しください。また、このような実情についてどのようにとらえているのか、御
所見をお伺いいたします。
次に、第八項大学費、芸術大学音楽学部校舎整備費についてお聞きしたいと思います。
今回の予算に、県立芸術大学の音楽学部棟を新築するための実施設計費一億一千百万余が計上されてい
ます。この愛知県の県立芸術大学は、その前身が戦前からあった東京芸術大学と京都市立芸術大学に続
く戦後初の新設の芸術大学として、当時の桑原知事の発案で構想され、カリキュラム作成から建物の設
計策定まで、そのすべてが東京芸術大学に依頼されたとお聞きしています。
これを受けて、計画の時点で建築科の教授だった吉村順三先生と門下生の奥村昭雄助教授が中心とな
り、多くの東京芸術大学の教授陣と建築科の教室が総力を挙げて設計に携わり、一九六四年の計画開始
から第一期工事の完了まで七年という長い年月をかけて実現されたものです。
我が国の建築界で活躍された吉村順三先生が残した数少ない大学キャンパスの計画として、竣工当時か
ら広く知られています。
また、二〇〇七年には、日本を代表する近代建築として、二十世紀の建物の保存を訴える活動をしてい
る団体「DOCOMOMO Japan」の選定建築物にも選ばれています。
この大学は、貴重な生態系が保持された環境にあり、キャンパスは延べ四十万平方メートルに及ぶ広大
な敷地で、自然に恵まれた緑豊かな丘の上に展開されています。そこには千人近い学生が学んでおりま
す。敷地全体に点在する形で配置された建物は、自然の地形をそのまま生かし、大半の建物は伏せった
ように低く、延べ四万平方メートルになるという大きさを感じさせない設計になっています。また、そ
の建物の全体の構成は、配置設計から建物の細部に至るまで徹底して合理的に設計されたものであると
言われています。
吉村順三先生は、キャンパス全体が完成した当時、自然の地形を損なうことなく、建物の間に生まれる
変化のある空間によって大空や緑に共鳴する交流の場をつくりたいと語っています。
しかし、その建物も四十三年が経過し、ところどころがほころびが出て、老朽化しています。教室や
ホールでは、遮音効果も不十分で音が漏れています。これでは、確かに学生たちにとって授業には支障
があり、学ぶためのよい環境とは言えないでしょう。
そこで、校舎を建てかえるのか、改修するのか、財政的なコストの面と吉村順三先生方の当初の思いを
考えながら、どうすることが望ましいのか熟慮しなければなりません。
先日、吉村順三先生の長女の隆子さんが私どものところにお見えになりました。吉村順三先生のつくら
れた芸術大学の建物の保存を求める多くの声を聞いてほしいと二千三百十二人の署名を高尾副知事に手
渡され、次のように要請されました。
財政的にも厳しく、環境に配慮しなければならない時代に、新しく建てかえるのではなく、技術的にも
可能で、費用も少なくて済む増改築で対応するのがよいのではないか、現状を使う形で改修してほしい
とのことでありました。
また、この芸術大学の建物は、二〇〇六年に第六回JIA(日本建築家協会)の二十五年賞を受賞して
います。この賞は、二十五年以上にわたって長く地域の環境に貢献し、社会に対して建築の意義を語り
かけてきた建築物を表彰するものです。
吉村順三先生のこの作品は、第一回にもノミネートされていましたが、芸術大学側が建てかえ計画があ
るからといって、当時、辞退された経緯があるそうです。
その後、バブル崩壊ともに県財政も悪化したため、建てかえ計画がなくなり、また、大学の組織改革に
より独立行政法人として運営されることとなり、その時点では現在の建物を補修しながら使用していく
方向で、建物が消滅することを免れたようであります。
だから、この作品の受賞は、この地域の環境にしっかりと根をおろして、地域の景観、文化に貢献して
いくこと、建物がもとの姿のまま、耐震改修・補修工事を行いながら、使用していこうとする大学側の
姿勢が評価され、JIAの二十五年賞にふさわしいと判断されたものであります。
ところが、少子化、大学間の競争の激化など、大学を取り巻く環境の変化は著しいものがあり、独立行
政法人後においても、内部でこれからの将来ビジョンが話し合われたと聞いております。
そのための検討機関として、大学施設整備委員会が設置され、検討を重ねた結果、「愛・知・芸術の
森」をコンセプトに、四十三年前に建設された現キャンパスの概念を踏襲しながら、これからの芸術大
学を見据えたマスタープランをまとめられたそうです。
それがどのような中身かということでありますが、それは建てかえが主で、一期目で音楽学部棟及び講
義棟、学生会館の整備、二期目は、美術学部棟、美術館及び図書館改修、三期目にコンサートホール、
音楽学部施設、その他の施設等、順次建設改修を行っていく計画であるとされております。
独立行政法人になった時点で、芸術大学の建物は当面県側が貸し付けとし、改修完了後、芸術大学に出
資するとされています。そして、この財政措置は当然愛知県がすることとなっております。
この現場がつくったマスタープランを県当局が認知されておられるのか、このマスタープランをベース
に施設整備を行っていくための第一弾が今回の音楽学部の校舎の新築であるとすれば、マスタープラン
どおり、結果的にはすべて建てかえなければならないことになります。だとすれば、この全体計画の詳
細を議会に説明するべきではないでしょうか。
先日、吉村順三先生の長女の隆子さんが高尾副知事にお会いして、署名をお渡しになられたときに、隆
子さんがマスタープランについてお聞きになられたときは、マスタープランはないと県当局はその場で
きっぱりと否定されました。
であれば、全体構想や全体計画が不明のままで、音楽学部校舎だけの新築計画であり、後は白紙という
ことなのでしょうか。
そこで、まずお聞きします。
この大学が創設した当時の思いを大切にし、吉村順三先生の歴史ある建物を残しながら、新しく建てか
えるのではなく、改修していくお考えはないか、御所見をお伺いします。
私もキャンパスを見せていただきました。大学としては、学生がいる限り休むわけにいきませんと学長
に御説明いただきました。それは、本当になるほど、そのとおりだと思います。当時に比べれば学生も
ふえ、大学院も新設されました。それは、確かに機能的で新しいよい環境で学ばせてあげたいでしょ
う。生徒もふえ、手狭になった校舎を新しく増築することも必然性があると思います。
だからといって、まだ改修して十分使える歴史あるよいものを壊すということはいかがでしょうか。
どうも県当局は、マスタープランをお認めにならない。財政的に厳しいのに、そんなことは認められな
いということだと思いますが、しかし、建築士など専門家に聞けば、建物は全体計画があって初めて部
分計画も可能で、全体構想がなく、その都度考えるのはやっつけ仕事で、根本的におかしい、ひいては
将来に問題を残すと言われております。
私もそのとおりだと思いますが、大学現場でこのようにマスタープランができている以上、それに沿っ
て建築改修が行われると考えるのが必然でしょう。そして、すべて建てかえれば、推測すると、二百億
から三百億の計画だと言われています。
今までも補修、改修、増築による場合は、幾らかかるか、当然さまざまな角度から調査されているとは
思いますが、コスト的には何分の一で済むと思います。壊さずに直す方法は幾らでもあると専門家は言
います。
東京芸術大学は、既存の建物は壊さず、ほぼ改修を終え、常に維持作業を持続していると聞いておりま
す。
そこでお聞きします。
あくまで、大学現場の作成したマスタープランをお認めにならず、その都度、財政状況によって判断さ
れるということなのか、お考えをお聞かせください。
また、今回は、音楽学部校舎の計画ができたとのことでありますが、本当に将来に向けて全体計画が承
認されないまま、今回の音楽学部校舎の計画が進められていいのか、現在の音楽学部棟の活用も含め、
今後の芸術大学の施設整備についてはどのようにされるのか、お考えをお聞かせいただきたいと思いま
す。
以上です。